| Back | Index | Next |

14  浴衣
更新日時:
2006.09.15 Fri.
あれから
 
毎日会って
 
海を散歩したり
 
映画を見たり
 
時には海の家の手伝いをしたり
 
充実した毎日を一緒に過ごした
 
 
楽しい時間はあっという間に過ぎ
 
ついに最後の日
 
近くの神社のお祭りに行くことになった
 
 
張り切って
 
2年ぶりに浴衣を着る
 
自分で着れないから
 
桃子に着付けてもらう
 
 
「麻緒の浴衣姿久しぶりだねー。中学校以来?」
 
中学から一緒の桃子
 
そういえば、前回浴衣を着た時は桃子と一緒だったね
 
「はぁー。奴に麻緒は勿体無いー。」
 
「そんなこと言わないでよー。」
 
こんな風に明るくはしゃげるのも
 
桃子の支えがあったからだよ
 
 
「・・・辛くない?」
 
心配そうな顔をして
 
帯を締めながら聞く桃子
 
「うん・・・。大丈夫だよ。」
 
そんな彼女に笑ってみせる
 
心配しないで、と
 
意思が通じたようで
 
ふっと笑い返してくれた
 
「なんか・・・強くなったね。麻緒。」
 
囁くように言う桃子
 
そんな彼女に、私は感謝でいっぱいだ
 
「ありがとう。」
 
「・・・そんな改めて言わないでよー恥ずかしいしー!」
 
ちょっとほっぺを赤くして、笑った
 
 
神社の鳥居の前で待ち合わせ
 
履きなれない下駄でちょっぴり足が痛いけど
 
全然平気
 
 
5分前に来たのに
 
彼のほうが早かった
 
 
「早いね。」
 
「おう。じゃぁ行こうか。」
 
 
おずおずと手を差し伸べた彼
 
愛しいその右手を、自分の左手でぎゅっと握った
 
 
ふわふわの綿飴を2人で分け合って
 
金魚すくいで1匹もすくえなくて
 
射的で欲しかった人形を当ててくれて
 
すっごく楽しい
 
 
合間合間にちょこっと話をしたけど
 
2人とも、『最後』という言葉に触れようとはしなかった
 
 
忘れていたかったから
 
 
かき氷を2つ買った
 
味はいちごとメロン
 
彼が、慌てて食べて頭を痛くして・・・
 
その時のことが、つい昨日のことのようだよ
 
 
「海で、花火しよう。」
 
急に言うからびっくりしたけど
 
「うん。」
 
微笑んで
 
海へ
 
 
暗い海には誰もいなくて
 
海の家の明かりが目立った
 
 
あらかじめ近くのコンビにで花火を買った
 
いっぱい入ってるお得パック
 
 
かき氷を食べて、花火開始
 
 
真っ暗な景色に輝く赤、緑
 
照らし出された彼の笑顔
 
改めて、自分にはこの人しかいないと感じる
 
 
最後のシメ、線香花火
 
パチパチとささやかな光を放つ
 
「きれい・・・。」
 
その光に見惚れながら
 
この夏を回想する
 
 
休み前は、ヒマワリに憧れていた私
 
行きつけの海の家で偶然会えた彼
 
砂浜の素晴らしさに気づかせてくれた
 
一緒に運んだパラソル
 
沖縄旅行でくれた珊瑚
 
前の晩は、丘に登って泣いたっけ
 
聡美ちゃんの猛アタックに敵わなくて
 
涙したときに香ったココナッツの香り
 
流れ星に祈ってみたり
 
はたまた、会わないように図書館に行ったり
 
遠回りをして
 
彼の大切さを痛いほど思い知った
 
最後に通じた心と心
 
それと同時に知らされた終わり
 
 
いろいろあったけど
 
最後の日まで、この恋を大事にしようと決めた
 
 
そして
 
最後の日の今日
 
 
泣かないって決めたのに
 
我慢できなくて
 
流れ出た
 
 
花火の玉が地面に落ちて
 
暗闇が再びたちこめて
 
その中で号泣する私がいた
 
 
「・・・泣くなよ・・・。」
 
肩を抱く彼
 
それでもなお涙は止まらない
 
「ごめんね・・・。最後なのに・・・。」
 
「最後じゃねぇよ。いつでも会えんだろ・・・。」
 
いつでもなんて
 
神戸までの距離わかってる?
 
私は毎日一緒に居たいのに・・・
 
 
「・・・俺だって、好きで行くんじゃないんだよ・・・。」
 
添えられていた彼の手が
 
少し震えているのが分かった
 
声も
 
 
彼も・・・泣いてるんだ
 
 
自分のあまりにも自分勝手な考えに呆れた
 
私だけが寂しいんじゃない
 
彼だって、むしろ彼のほうが
 
辛さと闘っている
 
 
彼の腕を離し
 
自分から彼の胸に飛び込んだ
 
 
「・・・?!」
 
彼がびっくりしてる顔が浮かぶ
 
どんどん速くなる鼓動が聞こえる
 
合わせるように、私も速くなる
 
 
「・・・大好きだから。」
 
小さく囁いた
 
ちょっとだけ顔を上げて
 
彼の素敵な目を見つめて
 
ゆっくり、彼に届くように
 
「私、どこにいても、大好きだよ。」
 
 
切ない視線の後
 
ゆっくり近づいてきた彼の顔
 
 
そっと、目を閉じて
 
唇を交えた
 
 
初めてのキスの味は
 
しょっぱい涙の味と、メロンの香りと
 
 
彼の溢れる愛情
 


* ODAI TOP * NNR夏のお題100 * 詩集 数学編 * NNR企画作品 *41 * NOVEL TOP * HOME *