無我夢中で
走って、走って、
海に辿りついた
いつの間にか
辺りは薄暗くなっていた
心臓が高鳴る
居たら何を話せばいいんだろう・・・
まだ居るかもわからないのに
でもなんとなく
居る、って思った
恐る恐る、建物のなかを覗く
蛍光灯で明るいその空間に
彼の姿はなかった
いつもこの時間にはすでに帰ってる
冷静に考えれば分かることなのに
こんなに走って、バカみたい
とぼとぼと砂浜を歩いて、家に帰ろうと思った
その時だった
「ねぇ、キミ1人?」
後ろから、知らない男性に呼び止められた
「あ、今から家に帰るところなんで・・・。」
そう言って歩き始めようとしたら
急に、ギュッと腕を握られた
「帰るなんて言わないでよー俺1人で暇なんだ。相手してよ?」
力がだんだん強くなっているのがわかった
「はっ離してくださいッ!」
振りほどこうとしても、相手の力が強すぎる
怖くなって、足が震え始めた
「そんなことしても無駄だよ?足まで震えてるし。超可愛い。」
そして、ものすごい勢いで抱き寄せられた
「やっ・・・やめてくださいッッ!離してッ!」
もがいても、もがいても無理だった
だんだんと力が入らなくなっていく
勝手に居ると思って
走ってまで来て
いなくて
こんな目にまで合って
今まで溜まってた悪運が一気にやってきた
そう、彼に毎日会えてたのも
単に運が良かっただけ
その運が切れたら
偶然になんて会えもしない存在なんだ
現実を知ったショックと恐怖で頭が真っ白になった
そうこうしてる間に
太腿に手が触れた
気絶しそうになる寸前まできた
最後の力を振り絞って
叫んだ
「誰かぁッ!助けてッッ!!!」
次の瞬間
自分の体に加えられてた力が緩んだ
そして
「こいつに・・・手ぇ出すんじゃねぇッ!」
怒鳴り声がして
男と完全に離れることができた
私はその場に座り込んだ
意識が朦朧とする中
振り返って見ると
男と、彼が殴り合っている光景
止めなきゃいけなかったのに
私にはもうそんな力はなかった
「・・・平気?」
闘いを終えた彼が私の元へ歩み寄ってきた
相手は、数発殴られた後走って逃げていった
彼の肩の辺りには、青い大きなアザ
そして唇を切ったせいで少量の血が流れ出ていた
私のせいなのに
どうしてこんなに優しくできるんだろう
「ごめんね・・・本当に・・・。」
張ってた糸が切れて、私の目から涙が零れた
「俺は別に平気だけど。・・・怖かったろ?」
泣いて返事ができない私の頭を
彼は優しく撫でた
何度も何度も
私が落ち着くまでずっと
暖かい手の温もり
その持ち主の顔を見つめる
勇気とかは別になくて
ただ素直に
今しかない、と思った
「・・・好きです。」
何?と振り向いた彼
いつもは見れない彼の瞳を一心に見つめ
改めて言う
「あなたが・・・大好きです。」
しばらく黙って見つめ合った
自分の顔が赤くなっていくのが分かった
そして
私をふんわりと抱いた
「・・・今更恋なんてしないと思ったのに・・・。」
私の耳元で囁く彼
その優しさによりをかけて
次の言葉を発した
「・・・俺も、ずっと前からお前が好きだ。」
泣き虫な私は、また泣き始めた
今度は嬉し泣き
気がつけば
サンダルが砂に埋もれていて
彼も私も、裸足だった
そんな私達の幸せがずっと続くと思ったけど
運命が、それを許さなかったんだね
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